『更生支援における「協働モデル」の実現に向けた試論』メモ その1(Webの紹介と第1部(第2章)まで

吉間慎一郎 著
『更生支援における「協働モデル」の実現に向けた試論~再犯防止をやめれば再犯は減る』(LABO、2017年)

『更生支援における「協働モデル」の実現に向けた試論』メモ その1(Webの紹介と第1部(第2章)まで)

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内容紹介
本書は、弱冠26歳の若者がフィールドワークをもとに罪を犯した人の立ち直り支援における新たな原則を提唱する本です。
本書の際立った特徴のひとつは、「再犯を防止するには再犯防止を目的とするのをやめよう」と提唱するところにあります。
さらに驚くべきことに、著者は、「まず変わるべきは罪を犯した人ではなく、立ち直りを支援する人たち、社会の私たちこそが先に変わるべきだ」、と論じています。
著者がフィールドワークからこのような原則が必要だと考えた過程や、その原則を立ち直り支援に反映し持続的なビジネスモデルの提案まで行う本書は、立ち直り支援に関わる人にとって必読の一冊です。

【編集担当は原稿のここが気に入りました】
1)自らの手足を動かしてホームレス支援に携わり、更生支援に携わる人々や当事者に果敢にインタビューを試みた実践に基づく本であること!
2)通常の研究書は、テーマに関する学説を丹念にトレースし先行研究をしたうえで、自説を展開する体裁を取りますが、本書の特徴は、まずもってフィールドワークとインタビューと関連諸科学に関する書籍を渉猟し、一個の「学説」として確立したこと!
3)原田國男先生が絶賛したこと!

著者について
1991年群馬県館林市生まれ。群馬県立太田高等学校卒業、慶應義塾大学法学部法律学科卒業、慶應義塾大学大学院法務研究科(法科大学院)卒業、2016年9月に司法試験合格。 中学2年生のときに傍聴した裁判がきっかけで更生支援に興味を持つようになり、法曹を志す。大学生のときから継続的に全国各地の刑務所、更生保護施設、民間の支援団体等の参観・見学や、支援者へのインタビューを行っている。また、路上生活者等支援のボランティア(認定NPO法人山友会)に従事し、クラウドファンディングのプロジェクト運営や、編集長として機関誌の発行等に携わってきた。これらの経験をもとに講演等も多数。そのほか、一般社団法人途中塾第一期塾生など、幅広い活動を続ける。

検察官になったという話を聞いたて確かめた。あった。
http://yamanaka-bengoshi.jp/saibankan/wp-content/uploads/2018/02/291218-%EF%BC%97%EF%BC%90%E6%9C%9F%E6%96%B0%E4%BB%BB%E6%A4%9C%E4%BA%8B%E8%BE%9E%E4%BB%A4%E4%BA%A4%E4%BB%98%E5%BC%8F%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%96%87%E6%9B%B8.pdf
『更生支援における「協働モデル」の実現に向けて』
どんな検察官になるのかな? そもそも検察庁は彼の意見を取り入れたくて、彼を検察に迎えたのか、それとも沈黙させることが狙いだったのか、両方の勢力が検察の中にありそうな気がする。


目次
推薦の辞

慶応義塾大学法科大学院教授
原田國男先生

元広島高等検察庁検事長
酒井邦彦先生

慶応義塾大学法学部教授
太田達也先生

山口県立大学教授
水藤昌彦先生

目次

はしがき

序章
更生支援のパラダイムシフトの必要性

【第1部】協働モデルの誕生

第1章
パラダイムシフトの瞬間

第2章
協働モデルの明確化――犯罪からの立ち直りに必要な3つのこと


【第2部】協働モデルの理論化

第3章
協働モデルと犯罪学・福祉学・社会学・自殺の対人関係理論

第4章
協働モデルに対する疑問と回答

第5章
相互変容の過程と回復の過程

【第3部】協働モデルの実現

第6章
刑事司法の現状

第7章
更生エキスパート構想

第8章
更生エキスパート構想再論

第9章
ピア・コンサルティング
終章
更生とは何か
あとがき

なぜか推薦の辞が巻頭に4人分も入っているという変なつくり。
なぜ、それが必要と思ったのか不明。


「協働モデル」とは何か
  そのエッセンスは
 1、その人の能力と可能性に着目した支援のあり方が、当事者が社会からの偏見に立ち向かう力を与え、社会生活の回復を可能とするということ。

 2、 そのようなコミュニティへの定着のためには、当事者との協働に基づいた互助できる関係作りが必要不可欠であるということ 21p


 ・・・協働モデルは、当事者との協議に基づいた互助できる関係性を基盤として 当事者の能力や可能性を広げていくものである。 支援が多数派による価値観の押し付けになってしまうことを常に警戒し、当事者本人が望む問題の解決策を支援者と協働して実現していくプロセスである。・・・
 さらなるインタビュー調査から明らかとなったのは、立ち直りの過程においては、 当事者とその周りの人々が相互変容をしていくことが重要であり、 それが実現されるためには伴走者の存在が必要であるとともに、更生支援が当事者の人間関係の改善にも及んでいることで更生支援が最大の効果を発揮するということである。 22p


協働モデルの定義
協働モデルとは、伴走者と当事者のゆるやかな関係を基礎として互いの「無力さ」や「弱さ」を受け入れて「自分から変わる」という実践を当事者の家族や友人、職場の人々などの第三者を巻き込んで行なっていく相互変容過程である。100p



以下、最初から順にメモ



序章 更生支援のパラダイムシフトの必要性

犯罪は減っても再犯率はどんどん増えている現実、「刑事司法が犯罪者を処罰しても何も解決しないという状況」(4p)について触れた後、著者はこんな風に書く。
・・・重要なのは、犯罪の加害者でもなく被害者でもない第三者が当事者に対してどのように接するかということである。これは更生支援に関わる人間だけの問題ではなく、いずれは当事者が戻っていくコミュニティ、社会の問題でもある。我々が桃太郎を読んだ時に桃太郎が正義であり鬼が悪であると疑わず、鬼を退治に行く桃太郎を応援し悪である鬼を憎んだように、悪としての犯罪者を処罰する正義としての刑事司法という構図が我々の視点の中に固定化されてしまっているのではないだろうか。 加害者の被害体験部分を捨象し、、一方で、自分を被害者と同化させて加害者を断罪し続けているのではないだろうか。・・・4p

それに続けて、『「当事者」の時代』(佐々木俊尚著)を援用する。
 本来われわれは絶対者ではない。 絶対的な悪でもなく、絶対的な善でもない。その悪と善の間の曖昧でグレーな領域に生息している。しかしそのグレーな領域で互いの立ち位置を手探りで確かめている状態、 その状態こそが当事者である。われわれはそういうグレーな領域の中に生息することで常に当事者としての立ち位置を確認する。
 グレーな領域こそが、インサイダーの本質なのだ。そしてこのグレーを引き受けることこそが、社会を我々自身で構築するということに他ならない。 (『「当事者」の時代』360p)


そして、著者は以下のように書く
・・・加害者を断罪する方法ではなく、「グレーな領域」を正面から受け止めた上でこれまでの刑事司法を捉え直す必要が出てくる本書は、そうした観点から刑事司法における「当然」を疑い、それを批判的に観察するものである。今の刑事司法は、犯罪者に対して刑罰を科すことによって「めでたし、めでたし。」となっていないか。もしくは、刑務所で刑期を勤めればそれで「めでたし、めでたし。」なのか。現在実施されている更生支援とそれを取り巻く環境を観察し、「本当にそれがめでたいのかを考える」のが本書の目的である。6p

こんな風に刑事司法を根っこのところから批判している著者が検察に迎え入れられたというのが驚きである。検察の上のほうに本気で変わろうとしている人間がいるのか、あるいは彼を取り込んで黙らせようとしているのか、それとも彼の主張に気づかなかったのか、あるいは、彼の主張が変わったのか、ぼくにはわからない。

『更生支援における「協働モデル」の実現に向けた試論~再犯防止をやめれば再犯は減る』の吉間慎一郎 さん、検察官になったという話を聞いて確かめた。あった。
http://yamanaka-bengoshi.jp/saibankan/wp-content/uploads/2018/02/291218-%EF%BC%97%EF%BC%90%E6%9C%9F%E6%96%B0%E4%BB%BB%E6%A4%9C%E4%BA%8B%E8%BE%9E%E4%BB%A4%E4%BA%A4%E4%BB%98%E5%BC%8F%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%96%87%E6%9B%B8.pdf
『更生支援における「協働モデル」の実現に向けて、どんな検察官になるのだろう?


以下は序章でのダイジェストのさらなる要約。

第一部は協働モデルの誕生ストーリー

第一章では考察の元となる著者の経験を振り返りエッセンスの抽出を行う。長崎や山谷での経験。
そこから得られる エッセンスとは
 1、その人の能力と可能性に着目した支援のあり方が、当事者が社会からの偏見に立ち向かう力を  与え、社会生活の回復を可能とするということ。
 2、 そのようなコミュニティへの定着のためには、当事者との協働に基づいた互助できる関係作りが必要不可欠であるということ。(序章では7p、本文では21p)

第2章は第1章で得た知見の分析をさらに進めるための支援者3名へのインタビュー調査。
 1、立ち直りの過程に付き添う伴走者が必要であること
 2、人間関係の改善が重要であること、そして
 3、 当事者と伴走者とがお互いに影響し合って変容していくために、伴走者から変わる勇気を持つことが必要であること
 これらのエッセンスは、犯罪からの立ち直りに必要な3つのこととしてまとめられ、第1章での分析と相まって、本書が提案する新しい支援のあり方、すなわち協働モデルが誕生することとなる。

第二部では、第一部で抽出したエッセンスから 、それらが描き出す新たなストーリーを浮かび上がらせ、理論的に分析。

第3章では、協働モデルと理論的基盤を共有すると思われる長所基盤モデルとの比較。長所基盤モデルとは、本人の長所を活かして立ち直りを図るという特徴を持ったいくつかの更生理論の総称。この比較の過程で明らかとなるのは 、協働モデルは、長所基盤モデルが必ずしも明確に意識してこなかった「グレーな領域」の存在を正面から受け止め、 伴走者が自分から変わる実践であること、そして、協働モデルは再犯防止を目的とする長所基盤モデルとは異なり、再犯防止を目指さない支援のあり方であるということである。このような協働モデルの 特徴を写し出すために、犯罪学、福祉学、自殺の対人関係理論、社会学などの幅広い分野の知見を参照して理論的に分析。

第4章では、協働モデルの核概念となる相互変容についての掘り下げた検討。なぜ支援者が変わらなければならないのか、変容とはどのような課程かという疑問についてなるべく具体的に論じていく。支援関係に内在する立場の不均衡を解消し、当事者が抱える「生きにくさ」に耳を傾けることから、相互変容過程が始まることを示していく。

第5章では協働モデルの過程を一般化。 伴走者から見た総合変容の過程と、当事者から見た立ち直りの過程を分析した上で、 両者がどのように相互影響しあっていくのかについて体系化した知見を示す。伴走者が 自分から変わる必要性に気づくことから始まり、当事者との信頼関係を構築、当事者の指定席感情に耳を傾けるという過程を通じて、当事者が主体性を回復し、自分の痛みに気づいていく過程を明らかにしていく。

第三部では、協働モデルを実現するための方策を探っていく。現状分析とそれを踏まえた制度論を展開。

第6章では、刑事司法が置かれている状況や法曹の意識に焦点を当て現在の刑事司法が更生支援にどれだけ貢献できているのかについて分析を行う。そこで明らかとなるのは、現在の刑事司法が、当事者に回復して欲しいと願う法律家の想いを実現することが困難な状況になっているということである。

第7章では、更生支援のこれからの展望を考察。
ここで協働モデルを実現する制度論として提案されるのは 、更生エキスパート構想。 刑事事件の始まりから終了後まで更生エキスパートが一貫して当事者の生き直しに付き添うという制度 。

第8章では、更生エキスパート構想を練り直していく。協働モデルを実現するための視点を新たに設定して検討することで、国の機関としての更生エキスパートでは協働モデルの理念を実現するするには限界があることが明らかとなり、民間における支援を、刑事手続きの中に浸透させていこうという戦略が採用されることになる。

第9章は、ゼンショーで採用された民間支援戦略の具現化として、ピア・コンサルティングを提案。 労働者派遣の仕組みを用いて当事者のキャリアアップを支えていくといいモデル。その意義と限界を検討しつつ、それが共同モデルをいかに実現していくかを明らかにしていく。

終章にて、これまでの議論を振り返りつつ、更生や社会復帰の意義について再考。更生や 社会復帰が求められるのは罪を犯した当事者だけなのだろうか。本書の検討から見えてきた今後の展望を述べる。 (上記のまとめは7-9p)


この更生支援のあり方に対する考え方は、障害者支援や高齢者支援にも応用できる(9p)



【第1部】協働モデルの誕生

第1章 パラダイムシフトの瞬間



南高愛隣会の「雲仙・虹」での取り組みを報告し、著者は以下のように書く。
こうした負のスパイラルから、 長所に着目することによってコミュニティでの居場所を獲得していく過程は、まさに「悪循環サイクルに囚われた枠組みからの離脱は、異なる循環サイクルへの移行によって成し遂げられる、という人間の成長ステップ」(注2) そのものなのである。16p 
注2 森さちや「竹端寛『枠組み外しの旅』を読んで考えたこと」 ブログ「作曲と思索の愉しみ」収録 http://wood248.blog.fc2.com/blog-entry-12.html

・・・現在更生支援において主に行われている・・・就労支援や資格取得支援は、 時として 我々の行動様式の 一方的な押し付けに なってしまうのではないか。 本人が 望まないのにもかかわらず 働かせようとすることは、 支援ではなく、 まさに支配なのではないか。 また、 支援が入ることによって、 それまでの 人々の ライフスタイルを変えてしまう結果、 コミュニティや 人間関係が崩壊してしまうことはないだろうか。
 ここから見えてくるのは、 互助できる 関係 づくりと 支援から協働 への転換こそが 我々が目指すべき道なのではないか、 ということである。 21p



冒頭でちょっと紹介したが、21ページに協働モデルに関する簡単な説明がある。以下改行位置など変更

第1章 4 協働モデル

 以上の経験から 抽出されたエッセンスをまとめれば、
 ①その人の能力と可能性に着目した支援のあり方が、社会のその人への偏見に立ち向かう力を与え、社会生活の回復を可能とする。
 ②コミュニティへの定着のためには、当事者との協働に基づいた互助できる環境づくりが必要不可欠である。

②の視点からは、①における当事者の能力や可能性とは、支援者が着目した能力や可能性ではなく、当事者との協働の中で当事者自身が発見していくものであるべき…。そうでなければ、①も結局支援の一方的な押し付けになってしまう。

その意味で、当事者とそのその周りの人との互助と協働こそが中心的発見であると言える…。

そこで、このような更生支援のあり方を協働モデルと名付け……。

このモデルは、刑事司法と犯罪者を正義と悪の二項対立的構造と捉えることをせず、鬼の視点を踏まえた刑事政策を実現するものである。


「ぼくのおとうさんは桃太郎といういうやつに殺されました」
画像

( この「鬼の子どもの絵」は本のグラビアとして形成されています。) 


~~~~

第2章
協働モデルの明確化――犯罪からの立ち直りに必要な3つのこと


「協働モデル」とは何か
協働モデルは、当事者との協議に基づいた互助できる関係性を基盤として 当事者の能力や可能性を広げていくものである。 支援が多数派による価値観の押し付けになってしまうことを常に警戒し、当事者本人が望む問題の解決策を支援者と協働して実現していくプロセスである。・・・
 さらなるインタビュー調査から明らかとなったのは、立ち直りの過程においては、 当事者とその周りの人々が相互変容をしていくことが重要であり、 それが実現されるためには伴走者の存在が必要であるとともに、更生支援が当事者の人間関係の改善にも及んでいることで更生支援が最大の効果を発揮するということである。 22p

ここに犯罪からの立ち直りに必要な3つのことが含まれている。



第2章 3 更生支援における3つの共通点

このインタビューから見えてきた更生支援(立ち直り)に必要な3つのこと
①伴走者の必要性
②人間関係の改善の必要性
③相互変容の必要性
36p

②に関して、49~50pでは「悪友との関係を断つこと」というフレーズが躊躇なく使われていて、少しひっかかる。たしかに、更生のためにそれが必要だということは理解できるのだが、悪友とされた人はそのままなのか? 悪友を逆に巻き込んで変わっていくというようなプロセスは考えられないのか? そんなことを思った。

また、③に関してだが、確かに罪を犯すという面は変える必要があるのだが、そうではない素の自分の部分、変えがたい他の誰でもない自分という側面もあるのではないか? そして、③は「相互変容の必要性」ということよりも、支援する側とされる側との対等性・平等性の問題ではないか、と感じた。変えなければいけないことはある。それは支援者・被支援者の両方に。そして、それを個人モデルで収斂させず、変えなければならない多くは社会の側にあることを自覚することも必要なのではないか。そして、同時にネガティブ・ケイパビリティを獲得し、変えられないものを受け入れるということも同時に必要となるはずだ。

【第2部】協働モデルの理論化へと続く

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