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zoom RSS 「食大乱の時代」 読んで感じたこと

<<   作成日時 : 2008/12/23 06:47   >>

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食大乱の時代
“貧しさ”の連鎖の中の食
大野和興 西沢江美子著 七つ森書館 2008年7月刊

 2008年が終わろうとしている。もう半世紀生きてきて、そのうち30年近くはいわゆる活動家として過ごしてきたが、こんなに激しく変動した年はそんなになかったように思う。前半は景気のいい話がまだいろいろ出ていた。日本ではまだ、新自由主義を謳歌するものが闊歩していた。

 しかし、それはどれも生活実感からはかけ離れたものだった。

 現実にはネットカフェ難民と呼ばれる住まいを持てない若者が増え、少なくない人びとが作り出された大量の不安定雇用の中であえいでいた。そして、正規雇用についている人々も、それほどひどい状況ではないにせよ、あるものは分断された職場の中で長時間労働を強いられ、「メンタルヘルス」の不調を強いられ、それを扱うクリニックはどんどん増えているように思える。

 そんな中で「生きさせろ」という声を少しずつ聞くことができるようになってきた。

 そして、新自由主義という怪物が作り出したいんちきなシステムが突然はじけた。わけのわからない金融商品の売買で大儲けしていた米国の投資銀行がどんどんつぶれた。そのこと自体は、「それみたことか」という話ではあったが、そこで突然表れた不景気は「ため」のない人々を直撃している。企業は、自らの利益を確保するために不安定雇用を強いてきた人々を、さも当然であるかのようにばっさり切り、彼女や彼は放り出された。

 「生きさせろ」という声は大きくなっているものの、まだまだ有効な反撃にはなりえていない。この間、空前の利益を上げ続けてきた大企業はその収益を溜め込んだまま、そんなものはまったくないように振舞い、不安定雇用の人々をどんどん路上に放り出し続けている。

 これまでも先が見えない不透明感や窒息感はあったが、この事態の中で、先の見えなさは誰の目にも明らかになり、多くの人に重圧としてのしかかってきている。


 そんな今年の前半にこの本は書かれた。本の帯に、大きな文字で「いま、食と農の世界が音をたてて崩れている。」と書かれ、「人びとの食を支え、そのことによって土や水を守り、地域の自然環境を守ってきた食と農の現場から世界を見据える!」と説明されている。

 新自由主義経済の中で翻弄される日本を含む東アジアの農の現場の状況、そして日本の外食・中(なか)食産業の現場に起きていることがリアルに紹介されている。著者たちが実際現場に出向き、人々と語りあってきた話のリアリティ、そういう意味では頭だけでなく、身体全体を使って書かれた本だ。

 その執筆の動機について、あとがきでこんな風に書いている。とても興味深いので、少し長いが引用してみたい。
===
 長年農と食をめぐる問題を見つづけ、現場で当事者の方々と動いてきたものとして、私たちはいま表面に表れているあれこれの根っこでどんなことが起こっているのか、それはそういう意味を持っているのかを明らかにしたいと考えた。「食べる」ことは、農という自然と人間が織りなす営みによってつくられた「食材」のなかに宿る「生命」を、「料理」するという行為を通して引き出し、それを「食べる」ことで私たち自身の「生命」を再生産することだと思う。この「生命の循環」「生命の再生産」の根っこまでさかのぼって、いま起こっていることの意味をとらえてみたいと思ったのだ。
 この野心的な試みが成功したという自信はないが、とりあえず食の根っこの現実をとらえ、そこで人びとがどう生き、あるいはどう生きようとしているのかについてはお伝えすることができたと思う。
===

 ここに引用した執筆の動機は抽象的だが、この本に書かれている話はとても具体的な話だ。メコン川流域の中国やタイの、フィリピンの、そして日本の農村、あるいは都市やその近郊の、食と農に関する具体的な話の中から、<「生命の循環」「生命の再生産」の根っこまでさかのぼって、いま起こっていることの意味>が浮かび上がってくる。

 とは書いたものの、ぼくのようななまくらな頭ではなかなか「生命の循環」「生命の再生産」の根っこまでたどりつくことはできない。ただ、本を読み終えて閉じ、想像力を最大に喚起すれば、その輪郭はおぼろげながら見えてくるような気がする。そんな本だ。

 ここに描かれている具体性とは単に農や食の現場の具体性だけではない。二人の著者のひとりの大野さんについて、巻末の著者紹介には「脱WTO/FTA草の根キャンペーン」世話人という肩書きも記載されている。しかし彼は単に世話人というだけではない。実質的な事務局長として、それぞれの団体の調整にあたり、集会があればときにはビラの原稿を書き、机を並べ、片付ける。デモでは歩き、マイクを持ち、そして、代表として挨拶する、そんな具体的な役割を担っている世話人だ。

 この本の中で、農の現場の問題は世界経済の構造の問題として解説され、それへの抵抗も紹介されている。その抵抗はデモや集会だけではない。現場での具体的な生活の営みとしての抵抗だ。タイ東北部やフィリピンのネグロス島でのそのような営みの紹介を含めた、その視野の広がりがこの本を豊かなものにしていると思う。そして、タイ東北部での取り組みなどは、ここで大野さんはあまり書いていないが、彼自身も含む人びとが具体的にコミットすることでタイの農民が実現したものでもある。


 どんな壊滅的な農や食の現場の状況があるか、それがどのような世界経済の構造と現実の政治・政策と関連しながら行われ、また行われようとしているか、どのようにそれを超えていく展望をもつ切り口を見つけるのか、ということについては実際にこの本を読んでみて欲しい。

 この本、どのように大野さんと西沢さんが分担したかは書かれていないが、ぼくに印象的だったのは、著者たちが生活する秩父あたりのファストフードやファミレスで働く女性のインタビューの部分。そこで働く彼女たちの具体的な日常、それは日常であるために濃淡はあるが、食や農をめぐる世界の構造と日本の家庭の現状が直接つながっている姿が浮かび上がってくる。

 また、そういう不安定な状況で働かされている若者たちが『抵抗食の会』を結成しみんなで食を作りわかちあったり、ユニオンに集った若者が金がないので会議のときは200円ずつ出し合って飯を作り
、500円の会費で飲み会を行ってそこに親密なコミュニティを形成しているという話は楽しい。


 最初に書いたように、新自由主義として現れている資本主義が壊れつつある。しかし、それに変わるものは、まだ、なかなか具体的には見えてこない。そんな状況の中ででも、いくつか言えることはあるように思う。食べ物をめぐる今の状況ははっきり間違っていて、変えていかなければならない。そして、ここで書かれているような食べ物から見えてくる破滅的な世界は、黙っていては変わらない。ここから変えるべき世界の方向も垣間見えるように思う。

 問題は「誰が」「どのように」変えていくかということに焦点が移りつつあるように感じている。「誰が」という部分も見え始めている。それは草の根の一人ひとりだ。(これをどうつなげるかという大仕事はあるものの)残った問題は「どのように」ということになる。小さな営みはでてきている。それをどうつないでいき、もう一つの、今のようではない世界を実現できるのか。

 資本主義が壊れ始めているいま、これは動き出すべきタイミングなのではないか。30年近くも社会運動にかかわっていると、昔だってこんな風に危機をアジっていなかったかという思いがよぎらないわけではない。でも、その経験に照らしても、こんな風に変化の胎動を感じることは、今までなかったように思う。

 壊れ始めた資本主義の現状をそのままにしておくと、野蛮が支配するという状況が目の前で起きている。抵抗しにくいところから始まって、人びとは職場や住まいから路上に放り出されつつある。このまま放っておけば、ますます状況は悪くなる。

 小さな具体的な抵抗をつなげていきたいと思う。そこに未来があると信じたい。もうひとつの世界が本当に実現できるかどうかなんて、ぼくにはわからない。でも、抵抗が可能で、変革は可能だということをあきらめて生きるのはつまらないと思う。それが可能だと信じることは、つまらなくない、楽しい生き方を選択する方法でもあると思うから。

 この本を読んで、そんな思いを強くした。

 

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