日本社会福祉士会声明「津久井やまゆり園事件について」について

「津久井やまゆり園事件について」
公益社団法人日本社会福祉士会の声明
これを読んで、感じたことを書きました。
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 まず第一に、なぜ、植松死刑囚のような考え方が生まれたのか、知的障害者の施設で働いた数年の経験は彼に何をもたらしたのか、という視点が欲しいと思うのです。

 そして、次に死刑制度を容認してしまっている点。
民主主義を標榜する多くの国家で、いまは死刑は認められていない残忍な刑罰とされ廃止されているという視点がまったく抜け落ちていて、ただ現状を追認する文章です。また、社会福祉士というのは、いつか人がは変わりうるのだという深い確信がなくてもできるのか、と思うのです。変わり得る人を殺してしまうことが肯定されるのか、生きていて意味がないいのちがあるのかという視点の欠如です。そして、彼を殺してしまって、なぜ、彼のような思想が生まれたのか、考え続けなければいけない、それらを明らかにできるのか、と。

 さらにこの声明の内容に踏み込んでみてみます。差別意識について、以下のように書かれています。
私たちの中の差別意識は、目に見えず、気づきにくいものです。私たちは、無意識の差別や偏見も認めた上で、それらを振り返り、向き合い、そして、なくす取組が必要であり、このような事件が二度と起きないよう、社会全体で取り組んでいく必要があります。
確かにその通りです。しかし、こんなことは誰でも書けます。その事実に立って、社会福祉士がどのように、自らの内なる差別に気づくような営みに踏み込めるのか、どのように社会全体で取り組むのか、それこそが問われるはずですが、具体的なことへの言及は一切ありません。

次に「生産性と効率性に偏重」という部分について、まず引用します。
まず、私たちは、生産性と効率性に偏重した社会構造が人間を決して豊かにしないことを確認する必要があります。そして、基本的人権は、生産性と効率性に関係なく、すべての人びとに尊重されるべきものであることの共通理解を敷衍していかなければなりません。
 このような認識を社会に押し広げていくために、個人・集団・地域・社会に働きかけていく職務を担うものの 1 人が社会福祉士です。このような時勢であればこそ、私たち社会福祉士は、人びとの社会的権利を擁護し、多様性の尊重された社会構築に寄与する職責のあることを今一度肝に銘じておく必要があります。日本社会福祉士会は、そのような社会福祉士による実践を促進するとともにその育成に対しより一層尽力する所存です。
「基本的人権は、生産性と効率性に関係なく、すべての人びとに尊重されるべき」というのは誰もが言う話ですが、いたるところで無視されています。障害者権利条約は日本政府も批准したのに、多くの障害者はいまだに望まない施設に隔離されたままです。その隔離に社会福祉士は加担していないですか? 地域で暮らしたいと願うすべての人が地域で暮らしていけるために日本社会福祉士会は何をしていますか?

 貧困の中で野宿を余儀なくされている人のために社会福祉士にできることはあるはずなのに、日本社会福祉士会はその問題にどのように取り組んでいますか?

 求められているのは、この声明のようにきれいな言葉を並べるのではなく、具体的に人権を奪われている人たちとのように向き合えるか、具体的に何をするか、そんな泥臭い話ではないかと思うのです。
そして、結語では以下のように書かれています。
日本社会福祉士会は、都道府県社会福祉士会との連携を通じて、障害のあるなしにかかわらず、それぞれの地域において、そこで暮らす人々が他者への信頼を基盤として安全・安心に、生きることができる社会の実現に向け、差別、貧困、抑圧、排除、暴力、環境破壊などの無い、自由、平等、共生に基づく社会正義の実現をめざし、取組を進めてまいります。
 問うべきは、何が「「生産性と効率性に偏重」する社会を生んでいるか、また、「差別、貧困、抑圧、排除、暴力、環境破壊」をもたらしているものは何か、それらを克服するために何を取り除くことが必要なのか、ということではないかと思うのです。

 例えば、差別というなら、韓国や中国の人へのヘイトスピーチに対してどう向き合うのか、多くの沖縄県民が反対しているのに沖縄に基地が集中して、さらに拡大されているのは差別であり、辺野古の工事は環境破壊ではないのか? 東海道リニア工事がもたらす環境破壊をどう考えるのか? 動かし続けている原発と環境破壊をどう考えるのか? 貧困対策といいながら改善されない劣悪な無料低額宿泊所の環境はこのままでいいのか? いまだになくならないグループホームの建設反対運動に社会福祉士はどう立ち向かうのか、などなど。

「差別、貧困、抑圧、排除、暴力、環境破壊などの無い、自由、平等、共生に基づく社会正義の実現をめざし、取組を進めてまいります」というのは単なるスローガンではなく、そういう具体的なひとつひとつの取り組みだと思うのです。

 現実問題として、日本社会福祉士会がこれらすべてに急に取り組み始めるのは無理かもしれません。しかし、「差別、貧困、抑圧、排除、暴力、環境破壊などの無い、自由、平等、共生に基づく社会正義の実現をめざし、取組を進めてまいります」と言うのであれば、具体的に何をどのように始めるのか、そこを考えるところから、そのためにどんなロードマップが描けるのか、ワーキングチームを作って、検討されてはいかがでしょう。

 これを読んだ当初はこんな声明なら、出さないほうがましじゃないかとさえ思いましたが、考え直しています。

 そう、「差別、貧困、抑圧、排除、暴力、環境破壊などの無い、自由、平等、共生に基づく社会正義の実現をめざし、取組を進めてまいります」というのは勇気のある発言です。次に、じゃあ、具体的にどうするのかということを見せてください。
  
 この声明を読んで「これでまた、社会福祉士会に入るモチベーションが下がった」と思ったのですが、具体的な取り組みへの姿勢が見られたら、再び入会を考えたいと思っています。

 地元、大田区の社会福祉士会、および、その会長には世話になっているので、一度は申し込んだのですが、手続きを途中で止めたまま、申込書が返送されてそのままになっています。













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津久井やまゆり園事件について

 公益社団法人日本社会福祉士会は、人々の尊厳を尊重し、住み慣れた地域の中で安心して共に暮らせる社会の実現に努めることを憲章で定めている、都道府県社会福祉士会を会員とする専門職団体です。

 報道等によれば、3 月 30 日、相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者ら 45 人が殺傷された事件で、横浜地方裁判所の裁判員裁判で死刑判決を受けた元職員である植松聖被告が弁護人による控訴を取り下げたとのことです。同日が控訴期限であったことから、高等裁判所や最高裁判所の判断を待たずに死刑が確定しました。

 判決によれば、植松被告は、2016 年 7 月 26 日未明、利用者 43 名に対しては、殺意をもって包丁で突き刺すなどし、19 名を殺害し、24 名に傷害を負わせ、夜勤職員 5 名に対しては、その身体を拘束するなどし、2 名に傷害を負わせました。

 動機については、「意思疎通ができないと考える重度障害者は不幸であり、その家族や周囲も不幸にする不要な存在であるところ、自分が重度障害者を殺害することによって不幸が減り、重度障害者が不要であるという自分の考えに賛同が得られ、重度障害者を「安楽死」させる社会が実現し、重度障害者に使われていた金を他に使えるようになるなどして世界平和につながり、このような考えを示した自分は先駆者になることができる」ということを犯行動機として判断しました。

 公判では、事件当時の刑事責任能力の有無や程度が争点になったが、
判決では、「大麻又はこれに関係する何らかの精神障害の影響があったとはうかがわれず、動機の形成過程を踏まえても酌量の余地は全くなく、厳しい非難は免れない」とし、求刑通り死刑とされました。私たちは、この事件を決して風化させたり、忘れたりしてはなりません。 
 
 植松被告は、この裁判を通して、自らの主張を繰り返し、後悔や反省について語られることなく、また、ネット上では、それを支持する投稿が散見されます。そして、これまでの裁判の経緯に対し、医療関係者や社会福祉関係者等からは、この事件が、社会的問題としてではなく個人の問題として取り扱われてきたこと、再発を防止する取組みを今後どのようにしていくのかが等閑にされたままで裁判が終結したことについて問題点が指摘されています。
 
 私たちの中の差別意識は、目に見えず、気づきにくいものです。私たちは、無意識の差別や偏見も認めた上で、それらを振り返り、向き合い、そして、なくす取組が必要であり、このような事件が二度と起きないよう、社会全体で取り組んでいく必要があります。
 
 まず、私たちは、生産性と効率性に偏重した社会構造が人間を決して豊かにしないことを確認する必要があります。そして、基本的人権は、生産性と効率性に関係なく、すべての人びとに尊重されるべきものであることの共通理解を敷衍していかなければなりません。
 このような認識を社会に押し広げていくために、個人・集団・地域・社会に働きかけていく職務を担うものの 1 人が社会福祉士です。このような時勢であればこそ、私たち社会福祉士は、人びとの社会的権利を擁護し、多様性の尊重された社会構築に寄与する職責のあることを今一度肝に銘じておく必要があります。日本社会福祉士会は、そのような社会福祉士による実践を促進するとともにその育成に対しより一層尽力する所存です。
 
 日本社会福祉士会は、都道府県社会福祉士会との連携を通じて、障害のあるなしにかかわらず、それぞれの地域において、そこで暮らす人々が他者への信頼を基盤として安全・安心に、生きることができる社会の実現に向け、差別、貧困、抑圧、排除、暴力、環境破壊などの無い、自由、平等、共生に基づく社会正義の実現をめざし、取組を進めてまいります。

     2020 年 4 月 6 日
     公益社団法人日本社会福祉士会 会長 西島 善久

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